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店じまい・店びらき ~閉店のヘキレキ~

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2008年 07月 18日

憩いの場

今日の店じまいは、
東京・港区にあった麻布十番温泉。
3月、60年の歴史に幕。
街を形容するときに「古さの中に新しさがある」とか「昔と今が混在した」という言葉が使われるが、それがぴったりな商店街である。

六本木ヒルズからの、華やかで洗練された空気が流れてくる中、
地元の人々による土着の一本木な雰囲気も嗅ぐことができる街。

与太着の翁が柴犬を連れて散歩しているかと思えば、日に焼けたアメリカ人の
親子がセントバーナードを3匹も連れてオープンカフェでくつろいでいたり、
アメリカ発の「SUSHI」ロール店があるかと思えば、握るときだけ腰が伸び、矍鑠とする
大将が1人で握っている老舗の寿司屋さんもあったりする。


そんな「セレブな老舗」、麻布十番のランドマークが、この温泉だった。
憩いの場_e0030939_11181637.jpg























1階は銭湯「越の湯」。
3階が天然温泉の「麻布十番温泉」である。
「もともと銭湯として営業を行っていたが、井戸を掘ったところ温泉が湧いたことをきっかけに業態を変え、営業を続けてきた」と記事にはある。

麻布十番の街を一番高いところで見下ろしてきた煙突は、いつの間にか近くの38階の超高層マンションに軽々と越されて、どこか肩身が狭い。

僕が行ったのは最終日。
お客さん-それも全て女性-が、番台へいろいろな想いを述べている。
「辞めちゃうの?」
「これからどこに入りに行けばいいの?」
「サウナができたとき嬉しかったのよ」
「最後にこれてよかった」
・・・などなど。

番台のおばさんが、うどんやおでん、カレーなど軽食を作ってくれるのだが、
それを見て「何でもいい。何か記念に食べたい」という人もいたりしている。

憩いの場_e0030939_11303299.jpg

























憩いの場_e0030939_11361422.jpg実家にかつてあったような、きれいなすりガラスを開けると大広間。






















そこは休憩所になっており、最後の時間を過ごそうと、風呂あがりの人々がボンヤリくつろいでいた。
何もせず、ただひたすらステージを見つめている人、
寝転がる人、
番台のおばさんが作る名物のカレーやうどんを食べる人いろいろである。

ステージ脇のカラオケの画面から、音楽番組みたいなのが延々と流れている。


廃業の理由は以下の通り。

憩いの場_e0030939_10465542.jpg























代表の平岡久栄さんは当時、
電話越しに「取材攻めでしんどい」と言いながらこう答えてくれた。
「ここに麻布十番温泉があったことは覚えておいてほしい」。

今は不動産屋が未来のために買い取っている。



男湯に、小さな娘さんを連れた男性がいた
「かゆいところないか~」と頭を洗ってやっていた
薄壁1枚、隔てた向こうから、母親であろう女性が娘に言った声が聞こえる

「ちゃんと肩までつかりなさいよ」

それには娘は答えず、
狭い湯舟に響くケロリンが代わりに答える
名残惜しそうに風呂場でカランと鳴いている


by misejimai | 2008-07-18 13:32 | 銭湯


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