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店じまい・店びらき ~閉店のヘキレキ~

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2007年 03月 13日

「体力がないとわがままになるね」

今日の店じまいは、石川県金沢市片町にあるそば屋・末廣亭。

「体力がないとわがままになるね」_e0030939_21285382.jpg
















「体力がないとわがままになるね」_e0030939_22233143.jpg片町は、石川県最大の歓楽街。
東京で言うと新宿・ゴールデン街だろうか。
小路の隙間に、店の格子に、埃が見え隠れする猥雑さと、
耽美な気品さが挟まっている。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの」と、
有名な詩を歌った小説家・室生犀星。
彼が生まれ育ち、ペンネームの由来にもなった「犀川(さいがわ)」が近くを流れる。

この末廣亭はご主人が立ち上げて45年間やってきた。
丁稚奉公ののち、結婚を機に独立。
お父さんは心が大らかで責任感にあふれ、裏表もない。
人に優しく、恵比寿様のような顔をしている。

以上は奥さんの印象。
奥さんは隣のご主人を語るとき、本当に幸せそうな顔をしていた。




「体力がないとわがままになるね」_e0030939_22344557.jpgお父さんは、そば一筋だった
頑固者とかいうわけではなくて、
客が来たら何時であろうと
断らなかったという
開店時間は朝10時から深夜2時まで

15年前までは朝6時までやってた
お父さん本人曰く、
「お客さんの顔を見ると、釜の湯を
捨てられなかった」




※おろしそば650円


「体力がないとわがままになるね」_e0030939_2254821.jpg時はバブル宴会全盛期
酔客の波は大きなうねりとなって店を占領していた
あふれる客のあふれる注文にも笑顔で応じていた
6時に閉め、
2時間寝てすぐに下ごしらえに取り掛かる
そんな生活がたたり、体を壊してしまい、何度も入院することに

その間、お母さんがお店を切り盛りしていたが、やはり限界があった
改めてお父さんの偉大さを知り、強まった絆





※ノートがなくなり、たまたま持っていたフリーペーパーにメモ

「体力がないとわがままになるね」_e0030939_2249765.jpgお父さんは復帰後、ちょっと疲れていた
お客さんが3人なり4人なり団体で来たときには、
みんな同じメニューを頼んでくれないかなと思ってしまった
またたびたび、一度にメニューを覚えられなくなっていった

基本お水はセルフサービスだが、
来店時は必ずお水を出していた

だがあるときお客さんについ
「お水ぐらい自分で取ってよ」と言ってしまった


お父さんは辞めることにした









「体力がないとわがままになるね」_e0030939_2253121.jpg


そんなお父さんに対して、「主(あるじ)ができなくなったら
私もやめる」
とお母さんは言った

子供を自由に育てすぎた
今や2人の子供はサラリーマン
「もう辞めたら」と今まで何度と無く繰り返すその言葉の影に、
「継がなくてごめんね」というニュアンスを読み取ったのはつい
最近のことだった












店の前で写真を撮る。

実はお母さん込みのもあるのだが、
「それは私の記念だけに撮ってちょうだい」ということで、こちらのお父さんの1ショット
だけのを載せる。


お父さんが「どんなポーズとろうか?」と聞いたので、
「お父さんのお好きなように」と言ったら、
こうやってくれた。
「体力がないとわがままになるね」_e0030939_21532631.jpg




誇らしげに手を腰に当てて、笑ってくれた

お母さんが
「最後だもん、堂々としてなくちゃね」

by misejimai | 2007-03-13 23:13 | そば屋


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