店じまい・店びらき ~閉店のヘキレキ~

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2010年 09月 03日

率先

今さらと思う御仁もおられるかもしれないが
2月22日、池袋の手芸用品店キンカ堂が閉店。
全国にあるキンカ堂の創業の地である。
3月、店のシャッターに数百枚の貼り紙が張ってあると聞き、やってきた。
auの店の前でアナウンスしているマイクがうるさい。
そこには、おびただしい数の貼り紙が、裁判所からの破産告示書という大魚を取り囲むスイミー
のように張られていた。

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店主からの閉店貼り紙の余白に
書き込むケースは今までも
あったが、
自らシャッターに紙を張る光景は
前例がない。
行く人は足を止め、見入っている。






1枚1枚には、今までキンカ堂を使ってきてことに対する感謝の念が綴られていた。
その場で書いたようなノートの切れ端もあれば、表彰状にわざわざしたり、お年寄りと見られる
達筆の感謝状もあった。


池袋という都会の中で、名もなき人の手書きの文字がこんなに見られるのはなかなか無い。
「人が生きている」というか、「人の想い」が感じられる皮肉にもオアシスだったのかもしれない。


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誰か声が聞きたくて地下1階の100円ショップ「キャンドウ」へ。
何か買ってレジ打ちしているとき、
もしくは商品を受け渡す前後に話題を切り出すのが常套手段である。
そのときはキティちゃんのボールペンを買った。
「上のキンカつぶれちゃいましたね」
「ええ」
「ここは大丈夫ですか?」
「えへへまあ、何かない限りは」








裏手に警備員室があった。
50過ぎの警備員さんがいた。
「つぶれちゃったのにまだ警備員室はあるんですか?」
「うん中が片付いてないから財務整理」
「おじさんはどのくらい前から?」
「そうだねぇ15年くらいかな」
「このあとはどちらに行くんですか?」
「まあ警備会社からの派遣だからまだ分からないけど」
「じゃあ、そんなキンカ堂には思い入れとかない?」
「いやあそんなことないよ」
「最後の日は何かしたんですか?」
「いや、なにもしてない。というか店長以下閉店を知らされたのは当日だからねぇ」



来訪から1カ月後にはすでに貼り紙は誰かの手によって全て剥がされ、
その後、期間限定の衣料品店がお目見えした。「キンカ堂」の文字は青いテープで隠れているが、
日の光ではまだ見える。
e0030939_18562537.jpgその店も9月5日をもって閉店する。
だが特に悲壮感はなく、「閉店セール」という貼り紙さえ滑稽に見えてしまう。

auの大音量マイクは聞こえなかったが、
夏の最後に張り上げるセミの声がかまびすしい。














ちなみに。
最初に紹介した200枚の貼り紙の中には、
店のテナントに入り、仕事を請け負っていた人が、閉店後もお客さんからの仕立ての注文を
個別に受けるため、連絡先を書いてあるものもあった。
その連絡先にかけてみると、80歳のおばあさんが出た。
「私たちに何も言ってくれず、突然閉まっちゃった。でも想い出がありすぎてお話できないんです。
 だって兄弟3人ともお世話になっていたんです。
 ええ、みんなお店で仕事をもらってて。
 最近は夏の暑さで体調崩してて。ようやく動けるようになって。
 いま、就職先探してるんですよ。はい。つぶれちゃったから。
 でも80歳だとハローワーク門前払いだわね」

そして。
「何もない限りは」といったキャンドウも先月くらいに閉店したらしい。
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by misejimai | 2010-09-03 19:31


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