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2014年 12月 13日

人の悲しみの上に



いつも当たらない人騒がせな天気予報とは打って変わって
ここのところのソレはきちんと正確に告げていた。
この日も予報通り、トゲのような風が吹き付けている。


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やってきたそこは、かつて蒲鉾屋さんだった。
今はタールを流したような黒い外観だが、昔は赤い格子がはめられていて、洒落ていた。
名は「和泉屋」、明治から100年、3代続く老舗だった。
「おでん種」を1つひとつ手作りで仕込んでいた3代目のおじいちゃんは、
年寄る波には勝てず、
2006年、自ら店の幕引きを選び、さらには翌年、残念なことに他界してしまう。


だがその後建物だけは壊されずに、後ろにあったマンションのオーナーが相当のお金で買い取ってくれて、
そのまま残されることになった。
誰かがテナントとして借り受け、オフィスにしていたようだ。

しかし先日、この建物の取り壊しが決定した。













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白いやつによれば、
それはそれは立派なマンションができるそうだ。















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脇には、少し場違いな自販機が、口をふさがれている。
























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やがて、どこからともなく自販機メーカーの方がやってきて、



























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自販機を移動し、運んでいった。



























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残るはいよいよ、この家屋が壊される番だ。


3代目のおじいちゃんの練り物や煮こごりの味を知っているというお孫さんのWさん。今は鹿児島に住んで
いる。
少年時代、ここによく遊びに行ってはおじいちゃんから美味しい切れ端を口に入れてもらって食べていたという。

そして今・・折に触れ、鹿児島から都内に来たときに彼が僕に話してくれたおじいちゃんとの思い出が、古びたランプの光のように、いつまでも温かく、僕の胸の中に揺らめいている。

自分の経験したことではないのに、1匹の夜光虫のように離れない。


ところでWさん、おじいちゃんの背中に追いつくことはなかったが、
商人の血を譲り受けたのだろう、
奥様のお父様が経営するコンビニの店長を長年務めたのち、
もう1つの夢でもあった、タコスで一旗揚げようと移動販売を開始。
遠い薩摩の空の下で、頑張っている。













Wさんだけに宛てる「追伸」

Wさん、
みんな、名残惜しそうに
この店の前に立ち止まってくれていましたよ。

誰も見向きもしない、
名もない店の閉店が多い中、
振り返って見てくれるだけで
幸せなほうかもしれません。


ちなみに隣の160年続く提灯屋さんに聞いてみると
提灯屋さんの敷地にも、マンションができるそうです。

提灯屋さんは、道向かいの自宅でしばらく仮で営業を続けた後に
マンションの1階に何とか入らせてもらうことになったそう。
「ほんと、いやになっちゃうよね」と一言。



人の不幸の上に人の幸せは作られます。
人の悲しみの上に人の喜びが作られます。
人間はそうやって生きてきたのです。
だから決して感傷的になることなどないのです。

そんな永遠不変の摂理に逆らって
マンション建設反対!などというのは、
殺されるのは、とうの昔にわかっているのに、
この期に及んで命乞いする者です。


そう言いながら、やっぱり僕は、少し涙が出て仕方がないのです。
どんなに頭をかきむしっても、答えは出ないし、何も助けになれずにすみません。
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by misejimai | 2014-12-13 23:53 | 蒲鉾屋さん