カテゴリ:居酒屋( 4 )


2008年 08月 14日

余生

今日の店じまいは、東京・北区の「神谷酒場」。8月9日に閉店。75年間の歴史があった。浅草・神谷バーから暖簾分けされた店。去年、同じようにDNAを受け継ぐ秋葉原のふぐ料理屋「神谷」が閉店したので、唯一のお店だ。江東区にある「神谷酒場」(現在は神谷という店名)は
神谷バーとは直接関係が無い。
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e0030939_23123540.jpg新宿や渋谷の喧騒を通る明治通りが、その周囲の建物の
目まぐるしい変化に戸惑い、高い建物の影に終始路面も暗くならざるを得ないのに対して、
墨田、台東、荒川、北区の明治通りは比較的、のびのびと
呼吸をしているように見える。
見上げると空も楽々と見えるそんな北区を走る明治通り沿いに、このお店はある。
3ケタの電話番号とデンキブランの柔らかい文字。

終わりを告げられ、あとは壊されるのをじっと待ち構える店と、
動きを止めることのない自販機。













夏草もうだる暑さの中、店の外でおじさんが後片付けをしていた。

両親亡きあと妹さんと2人で切り盛りしてきた。
だが、おじさんはここのところ体調を崩し、妹さんだけで店先に立っていた。

閉める理由はマンションの建設。
戦後すぐ建ったこのお店もおじさんと同じように弱ってきた。

「マンションの2階に住まいを建ててやるからっていうんでね、ありがたく
 住まわせてもらうことにしたんですよ」

2人とも独身で跡取りもいない。


カウンターには常連客が贈ったと見られる花々が、花瓶に入れられて整列し、店を覗く僕を
見ている。
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「ここにある冷蔵庫とかポスターとか手書きメニューとか、譲ってもらえませんか?」
「いやあ1、2度来た通り一遍の人には渡せないね」

店は、人ともに消えていくのである。
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by misejimai | 2008-08-14 00:44 | 居酒屋
2007年 01月 24日

日本人の心の限界点

e0030939_2274799.jpg今日の店じまいは、六本木6丁目にある居酒屋「三州屋」(さんしゅうや)。



















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六本木の中でもひときわ「おやじ臭」がしていた。
アマンド横の芋洗坂を下り、吉野家の角を右に曲がった先にあった。

















閉店理由は立ち退き再開発のため、である。
この一帯は全てそうである。

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白壁の部分はタイ料理が食べられるバー・Castillo(カスティージョ)。
こちらは移転した。

その隣の店は「よかろう六本木店」。こちらはまたどこかで
再開したい旨が書かれてある。

その隣が「三州屋」である。





白い大きなのれんをかき分けて店内に入ると、客同士が向かい合わせになるような2つの直線カウンターが店の中央を貫いている。
その直線カウンターに仕切られるように、右には20数席のテーブル席、左には15人分ほどの小上がりの座敷席と両側に展開。

お通しは小鉢にたっぷりのシラスおろし。
三州屋の共通のメニューは「とり豆腐」。鶏の水炊きを丼鉢に盛ったもの。
メニューは極太の焼きたらこ。どじょうの丸煮など、どれも500、600円で済ませられる。

生玉子は無料なので、ご飯をもらって最後は玉子かけご飯でシメるというのが通の定番。



さて。
「全国居酒屋紀行」などを著している呑んべえのカリスマ・太田和彦氏の弁によれば、
「世の中の変化の速度が人間の限界点を超えつつあって、その変化に疲れた心身を浄化
 させる場という役割を居酒屋が果たしている」という。

この店のカウンターには足元に仕切り板がなかったので、うっかりすると反対側に座っていた
人の足を蹴ってしまい、お互いが会釈し、謝ることもよくあったという。
人にぶつかっても、靴を踏んでも何も言わない人が増えた今、
最も尊く、最も微笑ましい光景がこの居酒屋には残されていた。


女将は店を閉めて驚いたことがある。
こんなに店の再開を待ち望んでいる人がいるのか、と。
ありがたい一方で、「場所がない」ともつぶやく。
お客さんの声が消えない限り、またどこかで開くだろう。いやきっと開いて欲しい。
「そのときはお知らせします」という言葉が頼もしく聞こえた。
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by misejimai | 2007-01-24 03:42 | 居酒屋
2006年 12月 09日

ひとみばあさん

今日の店じまいは、新宿2丁目にある割烹居酒屋、「ひとみ」。

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志村けんのキャラクターに
「ひとみばあさん」というのがあったが、モデルは、ここの居酒屋の創業者である。
フジテレビが河田町にあった時代に
よくここに来ていた志村が、手と声の震える女将さんをヒントに作り上げた。








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そんなひとみは裁判所による財産差し押さえで
解体。


















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志村のコントのように
笑い飛ばすことも出来ないようだ
板の間に必死に顔を覗かせている「ひとみ」
の文字が哀しい
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by misejimai | 2006-12-09 12:44 | 居酒屋
2005年 10月 09日

ラストオーダー

e0030939_23284458.jpg今夜の閉店の貼り紙は、
新宿・靖国通いにある、いやあった
居酒家「魚介(うおすけ)」。
お酒のつまみとして、築地市場から
毎日仕入れる魚介類が食べられる店だった。













e0030939_2342387.jpg作られた世界に飼いならされた動物たちが
機械のように流れ行く新宿駅

夜空を見上げても
ネオンに照らされた空は
星1つすら見ることを叶えてくれない

そんな死んだように生きる毎日を癒してくれる居酒屋

酔ってるから何も怖くない
ゴミ捨て場に体ごとダイブ

酔ってるから後先考えない
好きな子に心ごとアタック

でも、もう若くないから
できれば早くベッドに身も心も安置したいんだ

そして
うつら うつら
眠くなる

こくりこくり
こうべを垂れる

「もうそろそろ帰らなきゃ」なんて
「お客さん閉店です」なんて言われずに
いっそのこと
そのまま眠っていたい
夢でも見ていられるから

でも結局そのまま2人は別々の家路

布団にダイブして突っ伏しても
散らかった雑誌やら洋服の波に埋もれるのみ
そしてため息の風がせんべい布団を吹き抜ける

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by misejimai | 2005-10-09 23:41 | 居酒屋