IE9ピン留め
2012年 01月 26日
常連になるということ
寒さに目が覚めてしまった時、またもや、現実とはかけ離れた、1つの夢を見ていたことに気がついた。
自分が監督した映画を母校で後輩らとともに見るという観賞会。
そんな夢にも一向に追いつかない現実に枕元で苦笑していた僕を次に襲ったのは、
近くに構える、あるラーメン屋に関する、悲しい予感だった。

8年前、新しく今の場所に引っ越し、妻との結婚生活を始めた時からよく食べに行っていたその店。
長方形の店構えで、入るとカウンターとテーブルが、1本の通路を隔てておしくらまんじゅうのように居並んでいる。どちらも丸椅子。どのテーブルにもある、業務用のでっかいコショウの缶。
ラーメンの原点ともいえるしょうゆ味の懐かしい味。
隅っこのテレビはいつも必ずNHKという、ごくありふれた店。
そして、営むのは老夫婦。
口少なめだが、良い仕事をしてくれる、おじさん。
とにかく明るい接客で、まだ食べてもいないのに幸せにしてくれる、おばさん。

僕らの部屋は角部屋なのだが、その部屋から見える道から、よく店のおばさんの威勢の良い声が
響いていた。
「はい、いらっしゃ~い」
「はい、どうもね~」。
客がサッシを開けて出入りする時、店の中から叫ぶ彼女の声が漏れ聞こえてくるのだ。

仕事柄徹夜をすることもあるため、起きた時にはタモリが画面で歌っていることもよくある。
そんな歌声を聴きながら、カーテンを開け、ベランダのガラスを開けて前夜までの重たい空気を入れ替える
とき、外から聞こえてくる「はい、いらっしゃ~い」というあの声を聞いて、
「ああ、今日も頑張ってるな」と元気をもらって、また今日という日を生きようとするのである。

かれこれ8年。
アパートの裏手にあることから、正しい店名で呼ぶことはなく、親しみをこめて「裏」と言っていた。
だから、その店に行くときは「裏、行こうか」となる。

そんな裏から、最近、おばさんの声が聞こえなくなった。
ああ、今日は定休日だからか。
いや、遅い正月休みかな。
そんなあやふやな自分への言い訳が続いて2日、3日、4日・・・
カーテンを開けて、店を見るが、営業している気配がない。
営業しているときはちょっと道路にせり出しているピカピカ光る店の看板が、おとなしく奥で息を殺している。

1年前に、おばさんが腰を痛めてだかして入院し、店を少し休んだことがあり、そのときは入院する前に
僕らに事前にその旨を伝えてきた。
でも今回は、1月に入ってから一度ラーメンの「食べ初め」だということで暖簾をくぐったとき、
休業するという話はまったく出てこなかった。
多分だが、つまりは突然、だったのだ。

昨日の夜、夫婦で外に出るときさすがに気になって、「ちょっと裏、行ってくる」と言い残して見に行くと、
「しばらく休業」の文字が。

個人経営の店の閉店の張り紙を見ると、「良い話が聞けそうだ」なんて他人事のように
それを期待している自分がいるが、
本当に常連だとそんな気にもならない。

いつもなら、「良い貼り紙だ」なんてブツブツ言いながらデリカシーもなくシャッターを切る自分がいるが、
本当によく行く店だと撮りたくないことがよく解った。

この8年間、夫婦に子どもがいるような話は耳にしたことがない。
というより、子どものいない僕ら夫婦にとって、「お子さんは?」という質問を他人にするということが
いかに傷つくことであるか我が身を切られるくらい分かっているからだ。
ただ、ほかの常連さんとの会話でも、そういう話が一切出てこないということ、また、この8年、お子さんらしき
人の姿を見ていないということから察しても、お子さんがいるいないにかかわらず、この店の後継者はいないのであろうということだ。

後継者がいない店の常連になるということは、リスクがつきまとう。
やがて来る店主の体力の限界、そして閉店だ。
そんな痛みも、店主が元気なうちは気にも留めない。頭の隅によぎることもない。
だが、それが徐々に現実のものになったとき、それまで考えていなかった時間の分だけ、
不安が怒涛のように押し寄せる。

普通の人よりだいぶ多めに閉店を目の当たりにしてきた僕の、当たってほしくない、いやな予感。
それが杞憂に終わることを願いながら、もう一度床に就くことにする。
おじさんが作ったラーメンを口にしたときの口福を味わい、
おばさんの「はい、いらっしゃ~い」が再び聞けることを期待しながら、
もう一度、冒頭の、追いつかない夢の続きでもせいぜい見ることにする。


# by misejimai | 2012-01-26 04:02
2012年 01月 16日
久々
未だ生活という名の苦痛を強いられ、果たされないままの約束を抱えている人々がいます。あの日から、僕はこのブログの続きが
書けなくなりました。
なんてかっこいいコト言うわりに、いつしかテレビで腹を抱えて笑っていたりします。ましてや、書く時間がなかったのかといえばそうではなくて、切った爪をわけも無く確かめたり、手の平を眺めて運命線が変わってないかなと思ったりして、持て余すほどでした。
2011年前半には本を出版したいという夢はズルズルと延び、近所に停めてあった、ママチャリの後ろの、子どもを載せるカゴは
いつしか取り外され、アパートのとある一室の、朝方ドアノブに掛けてあった、「赤ちゃんが寝ています」という札も掛けられなくなりました。
でも、どこからともなく聞こえてくるピアノの腕は相変わらず進歩がありません。

あれだけ熱のあった出版社の人も、ほとほと愛想を尽かしているようです。それはひとえに僕のせいです。
いずれにせよ今年じゅうには本を出せるとは思います。ブログは書くと思います。毎日覗いて下さっている奇特な貴方、期待しないで
待っていてください。それまで別の面白いブログでも見ていてください。



# by misejimai | 2012-01-16 00:07
2011年 02月 26日
叩き売りと彼女の靴
花粉が鼻をおびやかし、影がいつもよりくっきりと
見えたこの日、広尾の靴屋さんが閉店セールを
していた。
店先に靴を並べて1000円から3000円ほどで
売っている。

2代目だというおじさん。家賃が払えず、やむなく
閉める。問屋もどんどんつぶれているという。
貼り紙は昨日まではあったという。残念。

この一角は、おしゃれな広尾に最後に残された、
戦後の雰囲気を今に伝える場所あった。
左隣はおもちゃ屋、そり隣がレコードショップの
跡地、今は駐車場。その隣はせんべい屋。







親子が靴を物色している。
娘さんが母親に「お願いします、お願いします、
頑張ってお茶の水入るから~」と、なにやら靴をせがんでいる。
お気に入りの茶色の靴があったようだ。だが少し
サイズが大きいようだ。

それまで何足も買っているので、母親は少し
ためらっている。だが、2000円という安さに、
どうしてもきっぱりと断りきれない。
父親から「学校によってはだめなんだよ、指定が
あるから」とたしなめる。

娘の懇願に根負けしたのか、扉もシャッターも
何もないあけっぴろげの店の中でサイズ違いの靴を、探し始めた。

「茶色の22、あったよ」
「お~!ナイス、ママ~」


こうして娘さんはお気に入りの一足を見つけた。
おじさんに直接2000円渡し、おじさんは「これで靴屋さんできちゃうね。どうもありがとう」と
言葉を投げた。

実際、かなり買い込んだらしく、
「すっごーい、何足買ったのホントに」と母親。

娘さんに、ここで買ったことをずっと覚えておいて欲しいと思うのは、わがままだろうか。







# by misejimai | 2011-02-26 17:51
2011年 01月 12日
昼下がり
本日はご来店くださいまして
ありがとうございます
エスカレーターにお乗りの際は横の手すりをお持ちの上
黄色い線の内側にお立ちくださいませ
お年寄りやお子様連れのお客様はお乗り降りに
ご注意ください
ベビーカーでのお乗りは
あぶのうございますので
ご遠慮くださいませ

アナウンスが何回も流れる中、
誰も乗せていないエスカレーターが行ったり来たり、上へ下へ。

去年閉店した西武百貨店の隣の阪急百貨店だ。

エスカレーターを覚えたのはおそらくデパートだったろう。

あれだけ楽しかったはずのデパートに入るのさえ、躊躇してしまう。

誰もいない広いフロアに、何人もの店員が人欲しい目をして服を折りたたんでいる。

8階に、背広で決めたサラリーマンたちが何十人も何かレジュメを持って
担当者らしき腕章をつけた男性から説明を受けていた。
ここは西武百貨店にも入れる場所だ。
西武の次に入るルミネのテナントのことを話し合っているのだろうか。

エスカレーターを降りるとき、隣の西武にそれでも人がいて、品物がある。
あれ、まだやってるのか?
と思ったら、阪急の店内がガラスに映っていただけだった。

# by misejimai | 2011-01-12 14:24
2011年 01月 10日
痛し痛し
成人式。
きれいなはずの振り袖も、しびれるほどの寒さによって心なしかくすんで見える。

せめて吐く息が白かったら、まだ寒さを心から実感できるが、白くなりもしないのが妙に歯がゆい。
むしろ逆にスーッと吸っている。

祝日の気安さか、
観光客の恥のかき捨てか、
明らかにツリーを観に来たカップルの男が、赤信号の交差点で、
もう車が折れてくるのにかかわらず、手で車を制止しながら笑みを浮かべて走っている。

いつもの橋の上には、ツリーを撮影する人々が。
でもみなさん、安心してください。ツリーは無くなりませんから。

押上にあった自転車屋さん、寺田商会。昭和3年創業。

交番から先の一区域の中、立ち退く店が絶えない中、最後まで残っていた。
でも整理がつき、去年の12月30日に閉めた。
本所のほうに移転する。


























3代目好宏さん75歳。
「道路拡張するんですよ、ここ。ツリーとかできて
 さ。広くするんだよね道を。

 でもツリーできてもね、食べ物屋ならお客さん
 いっぱい来てもいいけど、この店、こんな狭い
 でしょ。おっきなリュックしょった人が
 5~6人来て誰もあと入れやしない。実際、
 観光客が冷やかし半分で来るから、ツリー
 できても迷惑なんですよね。

 もう私、後期高齢者ですから。えっ後期高齢者
 っていったら75ですよ。10年前に息子に代を
 ゆずりまして、あとはゆっくりやってます。今、
 せがれたちですか? 子供たち錦糸町まで
 迎えに行ってるんじゃないかな」


北風が一段と体を硬くする。
帰り際、近くのミスドのショーウィンドーのドーナツが、あったかそうに見えた。




# by misejimai | 2011-01-10 19:08


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